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新型コロナで変わる診療所の新規開業Vol.01「内科診療所の開業シミュレーション」

  • 業種 病院・診療所・歯科
  • 種別 レポート

Vol.01新型コロナで変わる、内科診療所の新規開業

前回のレポート「コロナ禍でも収入を維持・向上させているクリニック」で、私たちは次のように述べた。

通院回数でなくレセプト枚数が減っているのであれば、単純な受診控えと考えることはできない。患者さんとの繋がりをどう維持するのか、ここに対策を考える必要がある。

そこで私たちは、保険収入を実患者数(レセプト枚数)、平均来院日数、診療単価に分解し、それぞれコロナによりどのような影響を受けているかを検証することとした。検証結果として、今回は内科診療所を取り上げる。

また、withコロナ、アフターコロナにおいて、診療所の新規開業も大きく変わると予測される。内科診療所の新規開業が今後どう変わるのか、それによって周辺の診療所はどのような影響を受ける可能性があるのかについても、考察したい。

内科診療所の収入構造・新規開業シミュレーション 解説

日本経営ウィル税理士法人 医療事業部
小松裕介、宮前尭弘、八百健史、得平浩然

コロナによる内科診療所の収入・患者数への影響

内科診療所の保険収入、実患者数(レセプト枚数)、延患者数、1日あたりの診療単価、平均来院日数について、対前年どのような影響を受けているか調査しました。(無作為、n=74~148)

2020年内科診療所の対前年増減割合

 

4月

5月

6月

7月

保険収入

84%

85%

93%

91%

実患者数

86%

83%

90%

91%

延患者数

81%

79%

88%

87%

1日診療単価

105%

108%

109%

107%

平均来院日数

94%

96%

97%

96%

概して内科診療所は、小児科や耳鼻咽喉科などに比べて、コロナによる影響を大きく受けてはいない診療科と言えるでしょう。保険収入も、7月には対前年9%減(91%)のところまで回復しています。

しかし、実患者数が9%減(91%)、平均来院日数も4%減(96%)、そのため延患者数は13%減(87%)となっており、7月の段階で日々の来院患者数としては、まだまだ回復したという実感ではなかったかもしれません。

実患者数や保険収入はそれぞれの診療所で大きく異なりますが、より具体的に考えるために、モデル的に次のような内科診療所があると仮定します。

実患者数750人×診療単価6,500円×平均来院日数1.5回=保険収入約730万円/月

モデルケースで考えると、収入9%減は年間約790万円に相当します。金額に換算すると、決して小さなものではないことが分かります。

また、実患者750人のうち9%減は、計算上は68名に相当します。この中に、通院しなければ重症化するような患者さんが含まれていないか、我慢して受診を控えられているのではないかということは、確認・フォローをぜひしたいものです。

※診療単価や平均来院日数は、どのような疾患の患者さんを主に診ているかで大きく変わるので、少なくとも疾患別に分析しなければ正しいデータは得られないと思われるが、本稿では統計的な解析を目的にせず、傾向の把握に留めている。

新型コロナによる診療所の新規開業への影響

ところで、このコロナ禍においても、新規開業された先生方はもちろんおられました。

昨年後半から今年の年初にかけて開業し、まさにこれから患者数を伸ばしていこうという矢先で感染拡大・非常事態宣言、大変なダメージを受けられた診療所もあれば、コロナの渦中で新規開業し、内覧会の開催さえ断念されたドクターもおられます。

一方、8月以降に開業された先生方の中には、事業計画の大幅な見直しは余儀なくされたものの、 レイアウトや空調設備など新型コロナの感染防止には最大限に対策を打つことができ、万全の体制で開業できたという声もあります。

このようにこれからの新規開業は、これまでの開業とは少し違った新規開業になることが容易に予測されます。

第一に、コロナの感染防止に相当な投資・対策をした上での開業になることは間違いありません。内装や設備への初期投資額が膨らむことになりますが、患者さんにとって分かりやすい差別化要因になるはずです。

次に、収支の計画についても、より慎重に考えるようになるはずです。特に患者数の推移については、毎月来院患者数が単純に増えていくという計画ではなく、コロナ禍でも受診・通院を必要とする、専門性の高い患者さんの確保を真剣に考えざるを得ないでしょう。

それは、専門性をより強く打ち出した開業であったり、連携先から患者さんを紹介してもらえる信頼関係づくりであったり、ホームページなどでのプロモーションであったりするのですが、そのような積極的に働き掛ける集患活動が、より目に付くようになってくるかもしれません。

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内科診療所の新規開業シミュレーションのポイント

ところで私たちは、お客様のご子息や親しいご友人の新規開業にあたり、事業計画の策定を手伝ってほしいとご相談いただくことがあります。

設計図とも呼べる「収支シミュレーション」を策定し、これを月次の収支予想に置き換え、開業時の貸借対照表を策定し、月次推移・年次推移へと展開していくのですが、内科診療所の場合、例えば下記のような点がシミュレーションでの特徴になると考えています。

消化器内科・上部・下部内視鏡を導入するか否かの判断。
・一般内科と内視鏡内科の収支を分けた採算計画。
循環器内科・循環器内科の専門性をアピールするのか否かの判断。
・来院患者数の推移を慎重に読み、過剰投資に注意が必要。
呼吸器内科・呼吸器内科の専門性をアピールするのか否かの判断。
・広域から集患できる立地・広告予算の確保など。
糖尿病内科・一定数の通院患者の確保、病院との連携などが立ち上がりを左右。
・糖尿病来院患者数の伸びを慎重に読んだ計画が必要。

このように新規開業の事業計画は、標榜科に応じて全く違ったものになり、ポイントも異なります。

ただ共通しているのは、withコロナ、アフターコロナにおいて、今後の新規開業シミュレーションは、これまで以上に現実的でなければならない。絵に描いた餅では役に立たないということです。

では新規開業シミュレーションをより現実的なものとするためには、どうすればよいのでしょうか。

「現実的」というのは、100%その通りになるということではなく、現実味のある腹落ちしたものである舵取りの判断軸になる、ということです。

ところで、当初は仮予算の域でしかなかったシミュレーションですが、開業準備のプロセスの中で具体的なものになっていきます。初期投資やランニングコストの見積り、スタッフの体制と人件費など、現実のものとして数値化されていきます。

しかし、収入・来院患者数は最後まで分かりません。開業してみなければ、どうなるかは分からないのです。

では、どうするか。

それは、腹落ちするところまで、何度もシミュレーションを繰り返すことです。目標通りに行った場合はどのような収支になるか、収支トントンとなるデッドライン(収支分岐点)はどこか、運転資金はいつまで持つのか。生活費は…。これが、新規開業シミュレーションをする意味です。

withコロナ、アフターコロナの診療所開業戦略

当然ながら、この新規開業シミュレーションは、診療所の開業戦略の選択と切り離せません。初期投資やランニングコストが大きすぎれば収支分岐点が極めて高くなり、リスクの高い開業になってしまうでしょうし、かといって予算の兼ね合いで待合室スペースを削減しすぎると、開業後の来院患者数が頭打ちになってしまうかもしれません。

基本は初期投資にすべてをかけるのではなく、リスクを分散して小さくスタートし、その後、計画的に拡張していくというのが王道になるのでしょうが、冒頭のデータに見られるように、内科診療所は概して収入を持ち戻してきていると思われます。

他業種がコロナの影響でテナントから撤退せざるを得ない中で、一等地のテナント確保など、これまで物理的に不可能だったことも選択肢に上がってくるでしょう。シミュレーション次第では、より思い切った戦略を無理なく立てられるかもしれません。

このように、withコロナ、アフターコロナにおいて、新規開業シミュレーションは事業の成否を分けるますます重要なプロセスになります。

そして、これは新規開業される先生方に限った話ではありません。

すでにご開業されている先生方にとっても、マーケットや連携先・競合先を再確認し今後の事業計画をシミュレーションすることは、次の打ち手を考える重要な分岐点になるのではないでしょうか。


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このレポートの解説者

日本経営ウィル税理士法人
小松裕介、宮前尭弘、八百健史

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

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